私の起業ストーリー
性教育に関わる情報を配信するウェブメディア「命育(めいいく)®」を2019年から運営する宮原由紀さん。会社員として子育てをしながら働くなかで消化しきれないモヤモヤを感じ、自分で納得がいく働き方を実現しようと、3社での勤務を経て起業されました。「これまで抱えていたモヤモヤが今はまったくありません」と朗らかに語る宮原さんに、起業までのストーリーを伺いました。
自分たちのサービスを通じて、
子育てに関する課題を解決する
性教育専門のウェブサイト「命育」はママをメインとするクリエイターたちと医師や専門家の協力のもと運営しています。メディアを立ち上げたきっかけは、自分自身が子育てをするなかで感じた課題意識からでした。長女の就学を機に「性」について伝えようとしたところ、苦戦してしまって。同時に性教育に関して簡単に正しい情報を得る方法がないと気づきました。
私たち親世代自身、今まで性に関する教育をしっかり受けたことがなく、トピックとしてもタブーとされてきてしまったがゆえに、パートナーや仲が良いママ友達にも話しづらい雰囲気がありますよね。だからこそ私たちは、「性教育」をごく日常的な子育てのひとつとして捉えていただけるよう、肩の力を少し抜いて「親から子どもに伝える」というスタンスを大事にしています。また、大人も子ども親しみやすいデザインで、分かりやすく、ポジティブに性の知識を発信するということを心がけています。
クラウドファンディングを通じて、多くの性教育の専門家の方々ともつながることができ、協力をいただきながらコンテンツを発信しています。
命育を立ち上げたのは、私が3人目の育休を取得していた時期でした。「自分はこれから何ができるだろうか」と自身のキャリアについて考え、デジタル系のスキルが学べる講座に通学。同じクラスのメンバーたちの会話の中で、それぞれが性教育に関して同じように課題を抱えていることがわかりました。そこでそのメンバーたちと共に性教育の情報を発信するメディアを立ち上げようと、当時勤めていた会社を退職。事業に集中することにしました。
海外コンテンツの配信にもつながった
ニューヨーク派遣
メディアを継続して運営するためには収益化が必要だと思い、ビジネスモデルのヒントを得たいと2019年にAPT Womenの第4期に参加しました。メンタリングの機会を頻繁にいただけたおかげで、今後の方向性が見えてきたように思います。女性起業家との縁ができたのもとても嬉しかったですね。
海外の性教育の現場や市場を知りたいという想いのもと、2020年1月にはニューヨーク派遣にも参加しました。現地の方々からは「この事業いいね!」と驚くほどたくさん声をかけていただいて。日本より性教育が進んでいるだろうと予想していた米国では、宗教との兼ね合いもあり画一的な性教育が難しく、各家庭での対応が求められているようです。また「人々がもつ性のタブー視は、日本と全く変わらないよ」という声も現地の保護者の皆さんから多く聞きました。だからこそ命育のような性の情報を発信するプラットフォームが海外でも役に立てる可能性は高いと感じましたね。
ニューヨーク派遣がきっかけで新しい世界も見えてきています。現在はニューヨークのNPO団体の性教育コンテンツを命育で翻訳して二次利用させてもらったり、米有数の観光地でもあるメトロポリタン美術館でガイドツアーをする方の協力を得て「アートから性的少数者(LGBT)を考える」という新しい企画を進めたりしています。
リフレッシュ方法
疲れた時は運動やマッサージでリフレッシュしています。我が家では、心と身体の健康のために費やす時間とお金は「必要経費」と定めています。ランニングをしたりマッサージに行ったりする時、ひとり時間が欲しいときは夫に子どもたちを任せて、しっかりと気分転換しています。
自分が納得できる、責任がとれる働き方を選ぶ
私は元々独立したいとか起業したいと考えていたわけではありませんでした。自分に課せられた仕事に没頭するのは好きでしたし、職場の同僚たちと切磋琢磨しながら働くことでやりがいも感じていました。新卒ではリクルートからキャリアをスタートし、そのあと2社を経て起業しています。しかし、出産後に転職活動をした時は「母である」ということがハードルになる現実に直面し、悩んだ時期もありました。
子どもを育てながら働くうえで何よりも辛かったのは、自分の心の中のモヤモヤが常につきまとうことでした。会社に勤めながら子育てをしていると「残業ができない」「替えの効かない仕事ができない」といった制約がかかり、思うように仕事ができていない感覚が常にあったのです。
そんな時にふと気づいたことは、「これまでに抱いていたモヤモヤは会社や環境の問題ではなく、自分自身の問題ではないか」ということ。働くママのキャリアには様々な課題がつきものだと思います。ならば自分で責任がとれる、納得のできる働き方を通じてモヤモヤと向き合おうと考え、独立の道を選びました。
現在、自分の事業を進めているなかでは、不思議なことにモヤモヤを感じる場面は全くありません。それはきっと自分の選んだ働き方に心から納得できているからだと思います。これからも同じように性教育に悩んだり、課題意識をもっていたりする人たちと一緒に、目の前の事業を丁寧に育てていきたいです。
Siblings(シブリングス)合同会社 代表宮原 由紀子 氏
兵庫県出身。リクルートなどでメディア事業や新規事業開発、PR業務などに携わった後、Amazon
Japanのメディア事業部を経て独立。Siblings合同会社を設立し、代表を務める。
プライベートでは、3児(1女・2男)の母。